現地の声:環境省等駐在員からの
耳寄り情報

2026.2

フィリピン
ゴミを「分別しない国」「燃やせない国」の
大きな変化と可能性

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フィリピン・マニラへ赴任したのは2023年3月。これまでも旅行・出張ベースでは東南アジア各国を訪れてきたが、海外赴任はこれが初めて、そしてフィリピンは初上陸だった。生活面での違いに戸惑うことは多々あったが、その中でも最後まで慣れないのが「ゴミ捨て」である。

この国では、ゴミの分別廃棄はほとんどなされていない。街中には「biodegradable(nabubulok)」「non-biodegradable(hindi-nabubulok)」と書かれたゴミ箱を見かけることはある。しかし、ゴミがきちんと分けられているケースは、体感的にはゼロに近い。どのゴミ箱にも、ペットボトル、ビン、カン、生ゴミ、紙袋等々が一緒くたに放り込まれている。住んでいるコンドミニアムでも、ありとあらゆるゴミを同じダストシュートに捨てるたびに、「本当にこれでいいのか?」というモヤモヤが毎度残る。赴任から3年近く経った今でも、この違和感には慣れない。

「燃やせない」ゴミ

では、その捨てられたゴミは、どのような運命をたどるのだろうか。

フィリピンでは、廃棄物の焼却処分は基本的に行われていない。当地の大気浄化法(Clean Air Act)第20条ではあくまで「有害物質を放出する焼却」を禁じられているのみであるが、この条文が拡大解釈され、「この国ではゴミを焼却することが全面的に禁止されている」という誤解が、立法関係者から一般市民まで広く共有されてきた。

ゴミ収集業者が集めた廃棄物は埋立処分場(Sanitary landfill)に持ち込まれる。例えば、マニラ首都圏で1日に処分される廃棄物は1万トンを超えると言われる。焼却されないため体積が大きく処分場はすぐに一杯になってしまう。また、発生するメタンによる火災や、ゴミの崩落が大きなリスクとなっている。

ダバオ市営ニューカルメン処分場。人口約195万人のダバオ市内から1日約700tのゴミが搬入されている。
「ウェイスト・ピッカー(Waste Picker)」と呼ばれる人々が、有価物を収集している。
計画容量をすでに超過し、山の斜面に張り出す形となっている。
大雨の際には崩落の危険性もあり、市の担当者は不安で眠れないと言っていた

処分場側のバラックでは、
ウェイスト・ピッカーが収集したプラゴミが集約されている

既存処分場の横に新たに整備中の処分場。
ゴミの量が多いため、これでも数年程度で満杯になってしまう見込みとのこと

インフォーマルセクターが担うリサイクル

全てのゴミがそのまま埋め立てられているわけではなく、有価物は途中で回収されていく。その役割を担っているのがインフォーマルセクターだ。

「スモーキーマウンテン」で有名なトンド地区を始めとして、マニラにはスラム街がいくつかあるが、大通りに面したところにはペットボトルやカン、ビンなどが「分別された」状態で積み上がっている風景が見られる。ゴミ箱に捨てるときは一緒くたなのであるから、こういった地域に住むウェイスト・ピッカー(waste picker)が、ゴミ箱から埋立処分場の間のどこかでインフォーマルに回収することで、リサイクルがなされている。

環境省調査に同行し、e-wasteのリサイクルが行われている集落を訪問したことがある。一本の路地沿いにジャンクショップが立ち並び、トライシクル(三輪バイク)で次々と家電ゴミが持ち込まれてくる。興味深いのは、この数百メートルの路地の中に一つのサプライチェーンが完成している点だ。入口付近では洗濯機やエアコンの外装を外す人々が黙々と作業し、奥へ進むにつれて扱うパーツは細かくなり、最終地点では「基板がキロいくら」といった単位で買い取られていく。そこからトラックに積まれ、集落の外、最終的には中国など海外市場へと流れていく。

生ゴミではないため臭気はほとんどないが、健康面の懸念は大きい。子どもたちもネジ回しを手に小さな部品を分解し、磁石を転がして金属を集めている。「この集落で育った子どもは、家電の解体がうまい」という現地の人の言葉が記憶に残っている。

この事例のように、適正に回収・処分されない膨大な量のゴミはフィリピン自身を大きく傷つけている。ゴミによる汚染、水産物の品質低下、観光業への悪影響など、直接的・間接的なインパクトは計り知れない。

集落の様子。
人々が路上で分解作業を行っている

分解された部品の買取所。
部品ごとの買取単価が掲示されている

世界最大の海洋プラスチック排出国・フィリピン

フィリピンのゴミ問題は、日本に住む人には遠く離れており、自分たちには関係ないと思われる方も多いだろう。しかし、フィリピンと日本は海を通じてつながっていることを忘れてはならない。

フィリピンは世界最大の海洋プラスチック排出国と言われている。世界全体の排出量の約三分の一を占めるとされ、さらに驚くべきことに、マニラ首都圏を流れるパシッグ川単独で6.4%、すぐ隣を流れるトゥラハン川で1.3%、合わせて世界全体の8%近い量が、首都圏の2河川から発生しているという推計もある。実際、河口付近では、上流から流れ着くゴミが絶え間なくマニラ湾へと流れ出している。

フィリピンの廃棄物問題の解決を難しくしている要因の一つは、自治体のキャパシティ不足だ。廃棄物管理は自治体(LGU)の所掌だが、特に地方部ではノウハウや人材も不足しているうえ、「自治体所管事項には国費を投入しない」という法令により、財政面での制約も大きい。また、フィリピン人は「宵越しの金は持たない」と言われ、非常に旺盛な消費行動が特徴である。経済成長と人口増加に伴い廃棄物の量は増加の一途をたどる一方、人々の廃棄物への関心は相対的に低いと言わざるを得ない。

世界の6.4%の海洋プラスチックの排出源となっているパシッグ川

市内の水路から回収されたゴミの山

海洋プラスチック汚染に寄与している河川(2021年)

廃棄物を取り巻く大きな変化と希望

しかし、希望はある。例えばセブのマンダウエ市では、曜日指定の分別回収が進んでおり、分別回収されたプラゴミを、当地に進出する日本のリサイクル企業・グーン社がフラフ燃料(廃棄物由来の固形燃料)に作り替えている。また、首都圏のパシッグ市では日本政府の拠出によりUNDP(国連開発計画)が実施したプロジェクトを契機として、分別回収・リサイクルの取組が市を挙げて進められている。国レベルでも、2022年にプラスチック包装を対象とした拡大生産者責任法が施行され、大型事業者には回収またはクレジットによるオフセットが義務化された。

また、前述の「ゴミの焼却処分禁止」に関しても大きな方向転換が起きている。2024年夏、マルコス大統領は毎年のように発生する洪水被害の原因としてゴミ問題を挙げ、さらには、そのソリューションとして廃棄物発電(Waste-to-Energy, WtE)に言及した。

この発言を境に、廃棄物焼却やWtE導入に対する当地の空気は一変した。これまでタブー視されてきた議論が一気に現実味を帯び、マニラ首都圏庁(MMDA)、エネルギー省(DOE)、天然環境資源省(DENR)などの関係機関が大きく動き始めた。国内・海外の企業が当地でのWtE事業参画に強い関心を寄せ始め、ランドフィル(埋立処分場)事業者(※マニラ首都圏のランドフィルは民営である)や当地の財閥企業、日本や中国、インドなどの企業も巻き込み、大きな動きとなっている。

変化を支える「日本の持つ強み」が求められている

日本政府は2018年に南部ミンダナオのダバオ市における廃棄物発電施設の整備のため、約50億円の無償資金を供与した。本事業は、日本企業が事業に投資し、施設建設に加えて運営にも参画する、官民連携型の「事業・運営権対応型無償資金協力」のスキームを活用したものである。その後、2020年のFIT制度停止に伴って長らく停滞していたが、大使館と調達代理機関による交渉が功を奏し、2025年、ダバオ市がさらなるティッピング・フィー(ゴミ処理手数料)の負担を表明したことと、エネルギー省による新たなFITプログラム「Green Energy Auction」の導入により、5年ぶりに調達準備を再開した。ダバオ市に対しては環境姉妹都市である北九州市が長きに渡り技術支援を行ってきた経緯もあり、本事業がフィリピン初の本格的なWtEとして実現することが期待されている。

フィリピンは大きな転換点に立っている。上位中進国入りが目前に迫るなか、ゴミを「分別しない国」「焼却できない国」は大きく変わりつつある。一部の自治体では先進的な取組が始められており、昨今の廃棄物問題に対する関心の高まりに応じて、他自治体への横展開も期待される。制度、技術、ファイナンス、運営ノウハウなど、日本が持つ環境インフラの強みが、まさに求められている国・市場と言えるのではないだろうか。

パシッグ市で新たに導入された
ゴミ分別設備

ダバオ廃棄物発電施設 建設予定地
市によりアクセス道路と用地は整備済

執筆者紹介

在フィリピン日本国大使館
二等書記官・インフラプロジェクト専門官
木下 覚人(きのした あきと)

2016年国土交通省入省。2023年3月より在フィリピン日本国大使館に勤務し、インフラ・環境分野を担当。

マクロ情報:フィリピン (2023年)

GDP(百万米ドル) 437,055
人口(百万人) 112
1人あたりGDP 3,905
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冒頭写真:家電を分解する子どもたち。なお本稿の写真はすべて筆者撮影

公的機関の認知、記録、保護、規制を受けていない労働者の活動
出典:https://www.ide.go.jp/Japanese/IDEsquare/Column/ISQ000015/ISQ000015_010.html

Electronic and Electrical Wastes (電気電子機器廃棄物)の略称。使用済みのテレビ、パソコン等の電気電子機器であって中古利用されずに分解・リサイクル又は処分されるものを指す。その発生量及び輸出入量が増加しているといわれているが、鉛などの有害物質が含まれているため、不適正な処理に伴う環境及び健康に及ぼす悪影響が懸念されている。
出典:https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h24/html/hj12040205.html

https://ourworldindata.org/grapher/plastics-top-rivers

出典:Meijer et al. (2021). More than 1000 rivers account for 80% of global riverine plastic emissions into the ocean. Science Advances. – processed by Our World in Data

参考:廃プラを燃料にリサイクルし、循環経済を構築!!
https://yport.city.yokohama.lg.jp/case/3486

参考:パシッグ市への移動式資源回収施設及びバイオガス消化槽の引き渡し
https://www.ph.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_01156.html

参考:羽田大使のダバオ市エネルギー回収型廃棄物処理施設整備計画 及びマラウィ復興のための交換公文署名式の出席
https://www.ph.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000504.html

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/kanmin/page23_000777.html

参考:再生可能エネルギーの固定価格買取制度
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/surcharge.html

参考:北九州市 環境姉妹都市
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/contents/01800224.html